母音は次の3つの要素から論理的に決まります。
- 口の開き具合
- 舌の位置
- 円唇性の有無
英語で使われる母音は多数あり一見したところ難しそうに思えるかもしれませんが、3つの要素で整理できるため、日本語の母音との相対的な関係を理解することで、意外と簡単に習得することができます。
この相対関係を理解するのにIPAの図が役に立ちます。まずはこの図の見方を説明します。なお、前提として本稿では米国発音を基準にしていますので、それ意外の英語発音にはあてはまらない場合があります。
縦軸は口の開き具合を表しており、一番上は日本語の「い」や「う」のように口をほぼ完全に閉じた状態、一番下は日本語の「あ」をはっきり発音したときのように、口を大きく開けた状態です。
横軸は舌の位置を表しており、左端は日本語の「え」のように舌が下の歯にべったりとくっついた状態、右端は日本語の「お」のように舌が後退した状態です。
記号が対になっている場合は、右側の記号は円唇性があることを示しています。たとえば / ʌ / と / ɔ / は 同じ位置にありますが、/ ɔ / は唇を丸めて発音します。 / ʌ / と / ɔ / の違いは唇を丸めるかどうかのみです。
英語 (米国)で使われる16個の母音について説明します。
1. 基本母音
1. i (非円唇・前舌・狭母音)
/ i / の音は日本語の「い」と同じ音です。
[例]
- beef /biːf/
- deep /diːp/
- eat /iːt/
- feel /fiːl/
- police /pəˈliːs/
2. ɛ (非円唇・前舌・半広母音)
/ i / から口を少しずつ開いていくと日本語の「え」になります。そこからさらに口を開くと / ɛ / になります。舌の位置は「い」や「え」と同じで最前部にあります。舌が下の歯に当たっていると思います。なお、辞書によっては / ɛ / を簡易的に / e / と表現しているもあるので注意してください。/ e / はIPAでは別の音として定義されているので、正確に / ɛ / を使うことをおすすめします。
[例]
- bed /bɛd/
- desk /dɛsk/
- egg /ɛɡ/
- end /ɛnd/
- pen /pɛn/
3. æ (非円唇・前舌・狭めの広母音)
口の開き具合は「え」と「あ」の中間、舌の位置を「え」と同じにした音が / æ / です。
[例]
- apple /ˈæp.əl/
- back /bæk/
- Japan /dʒəˈpæn/
- cap /kæp/
- hat /hæt/
4. u (円唇・後舌・狭母音)
まずは日本語の「お」を発音してみてください。舌の位置が後ろにあることに気づくと思います。この舌の位置を覚えてください。さらに唇が丸まっているのがわかると思います。「お」から舌の位置と唇の形はそのままで、口の開き具合を「い」と同程度まで狭めると / u / になります。
[例]
- blue /bluː/
- boot /buːt/
- cool /kuːl/
- pool /puːl/
- roof /ruːf/
5. ɔ (円唇・後舌・半広母音)
「お」から口の開き具合を少し上げると / ɔ / が現れます。舌の位置と唇の丸め具合は「お」と同じです。※口の空き具合は上下の前歯の間に指先がギリギリ入る程度。
[例]
- born /bɔːrn/
- north /nɔːrθ/
- orange /ˈɔːr.ɪndʒ/
- sorry /ˈsɔːɹ.i/
- war /wɔːr/
6. ʌ (非円唇・後舌・半広母音)
/ ʌ / で表記される音は、現在では発音が前よりになってきており / ɐ / の発音がより適切です。慣用的にまだ / ʌ / で表記されます(詳しくは / ɐ / の解説をご参照ください)。ややこしいですが / ʌ / という発音記号を見たら音は / ɐ / だと考えてください。日本語の「あ」の口の開き具合を少し狭くすると / ɐ / になります。発音も / ɐ / のほうが簡単ですね。
[例]
- bus /bʌs/
- come /kʌm/
- cut /kʌt/
- study /ˈstʌd.i/
- up /ʌp/
7. ɐ (中舌・狭めの広母音)
/ ʌ / で説明したとおりです。/ ʌ / という発音記号は / ɐ / で発音しましょう。その根拠を「脱・日本語なまり」より引用する形で下記に示します。
普通の辞書等において [ʌ] は英語の cut や mother 等の発音を表記するのにも用いられます.しかし, この慣用はもはや不適当です。英音と米音に大きな差異があるため正確な記号化はなかなか難しく,また慣用との妥協も必要ですが, 今日では [] を用いるのが最善でしょう.神山 (1995) において行ったこの提案は,ありがたいことに後にIPA (1999; 2003: 7ff.) によっても裏打ちされるに至っています.
「新装版 脱・日本語なまり §80」 より引用
実は, [ʌ] と表記されてきた英語の母音は少しずつ前進しており、§80に触れたように, 今日では [ɐ] と記すのが適当な中舌母音へと変容しています. 本来ならば記号の変更が必要ですが、今のところ従来の慣用との妥協もやむを得ません. 混乱を回避するため, 本書でも簡略表記の場合には [ʌ] を用います.
「新装版 脱・日本語なまり §133」 より引用
8. ɑ (非円唇・後舌・広母音)
/ ʌ / から舌の位置はそのまま、口の大きさを「あ」と同程度まで広げると / ɑ / になります。唇は丸めません。
[例]
- art /ɑːrt/
- August /ˈɑː.ɡəst/
- because /bɪˈkɑːz/ ※ビコウズではなくて、ビカーズ
- hot /hɑːt/
- what /wɑːt/
9. ɪ (非円唇・前舌め・広めの狭母音)
「い」と「え」の中間に口の開き具合で、舌のほんの少しだけ後退させると / ɪ / になります。
[例]
- before /bɪˈfɔːɹ/
- busy /ˈbɪz.i/
- city /ˈsɪt̬.i/
- him /hɪm/
- if /ɪf/
10. ʊ (円唇・後舌め・広めの狭母音)
/ u / の位置からほんの少しだけ口を開き、舌をほんの少しだけ前進させると / ʊ / になります。唇は少し丸めます。
[例]
- book /bʊk/
- cook /kʊk/
- good /ɡʊd/
- look /lʊk/
- rural /ˈrʊr.əl/
11. ə (中舌・中央母音)
曖昧母音やと呼ばれますが、その名のとおり曖昧な音になります。日本語の「う」、「え」、「あ」、「お」の中間に位置する音です。「え」の位置から少しだけ舌を後退させると / ə / になります。シュワーとも呼ばれます。
※口の開き具合は「え」と同程度で上下の前歯がくっつくか、くっつかない程度です。
[例]
- about /əˈbaʊt/
- afraid /əˈfɹeɪd/
- alphabet /ˈæl.fə.bɛt/
- banana /bəˈnæn.ə/
- student /ˈstuː.dənt/
2. 二重母音でのみ使われる音
12. a (非円唇・前舌・広母音)
舌は「い」の位置のまま、口を「あ」の大きさまで広げると / a / の音が生じます。/ a / は単体では使われず、2重母音の構成要素として / aɪ / および、/ aʊ / の形で使われます。/ aɪ / の場合は / a / から / ɪ / に、/ aʊ / の場合は / a / から / ʊ / になめらかに移行します。
[例 – aɪ ]
- I /aɪ/
- arrive /əˈɹaɪv/
- behind /bɪˈhaɪnd/
- child /tʃaɪld/
- decide /dɪˈsaɪd/
[例 – aʊ ]
- about /əˈbaʊt/
- brown /bɹaʊn/
- down /daʊn
- how /haʊ/
- now /naʊ/
13. e (非円唇・前舌・半狭母音)
日本語の「え」を舌の位置をそのままで、口を少し閉じると / e / の音になります。/ e / は単体では使われず、2重母音の構成要素として / eɪ / の形で使われます。/ e / から / ɪ / になめらかに移行します。
[例 – eɪ]
- afraid /əˈfɹeɪd/
- age /eɪdʒ/
- April /ˈeɪ.pɹəl/
- baby /ˈbeɪ.bi/
- cake /keɪk/
14. o (円唇・後舌・半狭母音)
「お」から / u / に向かって口の開き具合を狭めていくと / o / が現れます。舌の位置と唇の丸め具合は「お」と同じです。/ o / は単体では使われず、2重母音の構成要素として / oʊ / の形で使われます。/ o / から / ʊ / になめらかに移行します。
[例 – oʊ]
- borrow /ˈbɑːɹ.oʊ/
- below /bɪˈloʊ/
- cold /koʊld/
- go /ɡoʊ/
- snow /snoʊ/
3. 番外編 (R音声母音)
15. ɚ (中舌・中央母音) ※R音声母音
/ ɚ / はシュワーと呼ばれる曖昧母音 / ə / にR化を意味する / ˞ / が付加された記号です。/ ɚ / は hooked schwa (かぎ付きシュワー)と呼ばれます。 / ə / の発音にRの音色を付け加えた音なので、 / ə / の口の形で舌を反らせたり、盛り上げたりすることで発音します。
[例]
- after /ˈæf.tɚ/
- another /əˈnʌð.ɚ/
- center /ˈsɛn.t̬ɚ/
- ever /ˈɛv.ɚ/
- forbid /fɚˈbɪd/
16. ɝ (非円唇・中舌・半広母音) ※R音声母音
/ ɚ / にアクセントをおいた発音が / ɝ / です。発音は / ɚ / と同じですが、アクセントがある位置では 、 / ɝ / と表記されます。 あいまい母音である / ə / の R音声である / ɚ / をアクセントがある位置に使うのは不適切であるため、便宜的に / ɝ / が使われます。
[例]
- bird /bɝːd/
- church /tʃɝːtʃ/
- girl /ɡɝːl/
- turn /tɝːn/
- third /θɝːd/
以上。英語の発音をマスターしたい人には下記の本を強くおすすめします。
<参考文献>
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